石本華江のインタビュー

THE鍵KEY では、何に興味を抱きましたか?

2011年震災の後に、芸術の無力さを痛感した。舞台に立ってパフォーマンスを行う通常の形態での上演に懐疑的となり、「何のために作品を作るのか」「観客は何故チケット代を払って、何を期待して、劇場に人間を観に来るのか」というような問いを持つようになった。自分の作品においても2013年頃から、サイトスペシフィック、かつイマーシブシアターの特徴を持った制作を行うようになり、自分の芸術的嗜好に近い「THE鍵KEY」公演には当然のごとく興味を持った。日本の家屋ならではの湿気を孕んだ闇の漂う空間で、「気配」だけを感じる。同時進行で行われているからこそ見逃してしまう、だからこそより「見たくなる」。境界線を持った舞台上という空間で行われる出来事をただ漫然と眺めるのではない、「体験」する公演を「THE鍵KEY」チームと創作したいと考えた。

どうやって、THE鍵KEYのメンバーとなりましたか?

舞踏の創始者土方巽の創り出したメソッド、舞踏譜の研究会POHRC(Perspectives On Hijikata Research Collective)にてCo-directorであるローザ・ヴァン・ハンスベルゲンとは、共同演出として3作品を制作している。ローザは大和日英基金より助成金を受けており、その繋がりで先に振付を担当し現ドラマトゥルクであるアレクサンドラ・ルター及び演出家フランチェスカ・レロイと交流があった。ローザとの共同作品である「Inventory of my life」公演を観劇した2人に「THE鍵KEY」への参加を勧められた。

How was the character of Kimura created, and how was the choreography developed?  

演出及びドラマトゥルクから木村の「ミステリアスさ」をテーマとして提示された時、「結局木村はどんな人間なのか」という謎が残るようにしたいと考えた。原作でも夫と妻の言葉を通してしか、読者は木村を知ることができず、木村自身の思いなどを知ることはできない。今回の振付においても一箇所を除き、「妻から見た木村」と「娘から見た木村」という極端に違うキャラクターを作り出すことに主題を置いた。

振付は舞踏譜の方法論、特に「成る」ということ、また身体の感覚に主眼を置き、俳優と共に創り上げた。舞踏がフィジカルシアターの文脈に語られることが多い理由の一つとして、絵画等に描かれたその人物・物体に「成る」ということがベースの一つとしてある。説得力を持ってそこに「在る」ということ、言葉で言うのは容易いが、これは決して容易ではない。また通常の舞台サイズでは見逃されてしまうような、微細な表現も観客は見逃さない。そこを逆手に取り、舞台では行わないような極めて小さな動きを含んだ緻密な振付を行った。

THE鍵KEYで直面した最大の挑戦は何ですか?

一瞬の雑念も見逃さない集中した観客が見つめる中、舞台上の「安全地帯」でパフォーマンスをするのとは違いノイズの多い環境下において、パフォーマーの集中力が最も試される。身体の繊細な感覚に関わりながら、予想外の動きをする観客を完全に把握しながら、その場での即興的な判断も求められる。パフォーマーにとっては、非常に厳しい環境下での上演だった。

また上演芸術は通常、プロセスを提示してゆく。しかし今回の公演は観客がいつまでこの部屋に滞在するかは分からない。「常に見逃し続ける」観客がいつ見ても瞬時にキャラクターが理解できるよう、ある種味付けの濃い、強い表現を求めた。動きは緻密に、表現は明確に。空間に占める密度の濃さ、これが最も難しいが、「THE鍵 KEY」における根本的な要素と考える。