2019年度ロンドン建築フェスティバルのテーマ「Boundaries(境界)」に沿って、観客・演者の間、および私的・公的空間の境界の操作をすることがいかにTHE鍵KEYの本質的な要素となるかについて、パネラーにより議論が行われた。
パネルディスカッションでは、パフォーマンスの演出がいかに登場人物間の身体的、感情的境界を激化させるのか、また観客を私的な空間へ招き、演者を間近に見ることで生まれる没入感のある親密な体験の2点について話し合った。プライバシーが議題となり、私的空間のデザインが住人と客人として招かれた人の人間関係に及ぼす影響についても議論が行われた。Angus Shepherdは、設計士として家を「過剰に規定する」ことは決して望んでいないと言う。家というのはデザインが住み方を決めるのではなく、居住者が自分なりの住み方を見つける余地を残す必要がある。デザインは、自然とどこで何をするのかの提案をするだけで、そこで住む人に対応できるよう柔軟性を持たせなければならない、と説明した。
また、日本とイギリスの建築におけるプライバシーの概念の違い、それぞれの美とされるデザインや素材が、個人がどれだけプライベートになりうるか、あるいはどれだけ簡単に他人を垣間見ることができるかへの影響しうるか議論した。これはTHE鍵KEYの東京公演と比較した際のロンドン公演での演出に関連して議論された。伝統的な日本家屋は自然光がほとんど入らないことで登場人物が陰に身を潜めることを可能にする一方で、薄い障子は盗み聞きや窃視する機会を多く生んだ。対照的にロンドン会場10 Tollgate Driveの大きな窓や開放感のあるレイアウトでは、演者が家の隅まで退散しなければ本当の意味で1人になることはできなかった。しかしながら現実は、それぞれの登場人物は見られたいという願望を持っており、演者は家の広さを生かしながら、そうした登場人物の心情をうまく、かつ精巧に表現した。
パネルディスカッションに続いて、議論されたテーマがオペラの中でいかに表現されているのかを感じてもらうことを目的とした短い公演を行った。「娘」の音楽と動きの一部を抜粋し、そこへ会場であるPowell Tuck Associatesスタジオに合わせて特別に手を加えた。スタジオスペース上部のバルコニーにスピーカーを設置し、妻と夫を録音したものを同時に流すことで、他の部屋の登場人物の音が漏れて聞こえてくる感覚を体験できるようにした。望月あかり演じる「娘」は、時折観客に接近しながらスペースを動き回り、オペラパフォーマンスで生まれる男女の親密な雰囲気を作り出した。
「Peering into private lives. Crossing boundaries(私生活の覗き見 境界を越えて)」
日程|6月27日木曜、6:30pm-9pm
会場|Powell Tuck Associates Studio, 6 Stamford Brook Rd, London
パネリスト|フランチェスカ・レロイ(THE鍵KEYの作曲者・製作者)、
Bill Bankes-Jones(芸術監督およびTête a Têteオペラフェスティバル創設者)、
Angus Shepherd(Powell Tuck Associates取締役、公演会場10 Tollgate Drive所有者)
司会者|Asia Grzybowska(Powell Tuck Associates共同経営者)
パフォーマー|望月あかり(娘役、メゾソプラ))、Pau Mercadal(ヴァイオリン)
THE鍵KEYは 日英文化季間 2019-20の一環として上演