工藤あかねのインタビュー

THE鍵KEY では、何に興味を抱きましたか?

 観客に観せない、聴かせない部分があるという点が非常にユニークです。また、この作品では4人の人物がそれぞれの部屋で、自分の時間軸に沿って生きているわけですが、演者自身も他の部屋の進行具合を、ほとんど知ることができません。通常は指揮者がすべてを制御するところですが、この作品では演者が自身の感覚のみを頼りに進めてゆきます。二度と同じ形にならないところが、醍醐味と言えるのでは。

どうやって、THE鍵KEYのメンバーとなりましたか?

 フランチェスカさんとの出会いは数年前に遡ります。「トーキョー・エクスペリメンタル・フェスティヴァル」でリサイタルを行った際、私の親友が、日本にいらして間もないフランチェスカさんと客席で知り合い、終演後私に紹介をしてくれたのがきっかけです。その後フランチェスカさんがエレクトロニクスとソプラノのための作品の音源と楽譜を送って下さり、翌年のリサイタルで歌いました。そしてある時フランチェスカさんから、「鍵」をオペラにするアイディアがあるのだけれども、出演して欲しいとお話をいただきました。実現すると知った時には、嬉しかったです。

THE鍵KEYで「妻」という役で出演いただきました。どのように役作りをしました?

古民家を舞台にするとのことでしたので、その家の住人らしさをどのように出すかをまず考えました。「妻」は湿り気のある薄暗い部屋の中で、限られた人間だけを相手に生活している旧い女性で、現代女性とはメンタリティも大分違います。まずは着付けを習いに行き、着物に親しむところから始めました。本番では、洋装になった後も着物着用時の所作を残し、ブラウスやスカートに慣れない感じが出るように工夫をしました。また、大ホールで歌う時の発声では部屋のサイズにも人物像にも合わないため、歌い方も変えましたし、キャストとの関係性、特に娘役の方の人物像と差異が際立つよう、性格設定も微調整しました。

 演奏中、自由になる時間が設けられていますが、そうした細部にこそ人物のリアルが滲むのではないかと思っています。誰にも見られていないと信じてリラックスした状態を演技し続けるわけですが、これが衆目の前で行われるというところがこれまた谷崎的というか、倒錯したものが現れてくるはずですので、本当に気を抜いてしまわないように心がけました。

THE鍵KEYはサイトスペシフィックな作品です。演奏家として、古民家の中で観客が自由に回遊している中で演奏するのはどのような経験でしたか?

 これまでにも客席内を使ったパフォーマンスは行ったことはありますが、お客様は同じ位置に座っているのが基本でしたので、勝手の違いを愉しみました。いざ本番では、通らなければならないところにお客様が人だかりを作っていたりしましたが、何事もなかったかのように歩くと皆様よく気づいてくださって、すぐに協力して下さいます。それこそモーゼの十戒の海の場面のように、道を開けて下さって助かりました。

あかねさんは THE鍵KEY の最初からのコアメンバーです。試演会から今まで、 THE鍵KEY はどのように変化してきたと思いますか?

 試演会の時は全体像がわからず、全くの手探りでした。全体像が見えているのはもしかしてフランチェスカさんと、ドラマトゥルグのアレクサンドラさんくらいだったかもしれません。制作スタッフの方々はお客様がどう動くか、それによっての収容可能数など予測が立てられないところがあって、ずいぶん気を揉まれたのではないかと思います。回を重ねる毎に、現場のノウハウが蓄積されているのが傍目にも分かりました。

 この作品では部屋の間取り、大きさ、動線、廊下の幅、階段の有無など、これらをどのように扱うかによって、人物の性格や家族関係の濃度を象徴的に表わすことができます。異なる「家」での上演は、作品自体を洗い直すことにもなり新鮮に感じました。